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松山地方裁判所 事件番号不詳〔1〕 判決

主文

被告武智光は、原告に対し別紙目録(一)記載の家屋を明渡すべし。

被告四国科学器機工業株式会社は、別紙目録(二)記載の家屋のうち階下店舗三二坪七合五勺を、被告岡井藤志郎は、同家屋のうち階下居宅五坪を、被告武智利子は、同家屋のうち階上二〇坪を、いずれも原告に明渡すべし。

訴訟費用は被告四名の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として原告は、もと無尽業法により設立せられ東邦建物無尽株式会社と称していたが、昭和三三年四月一日相互銀行として発足し、商号を株式会社東邦相互銀行と変更したものである。しかして原告は、被告武智光に対し、(一)昭和二七年一二月二三日弁済期昭和二八年二月二八日と定めて金一、八〇〇、〇〇〇円を、(二)昭和二八年二月一一日、弁済期同年三月七日と定めて金四〇〇、〇〇〇円を、(三)前同日弁済期同年三月一二日と定めて金八五〇、〇〇〇円をそれぞれ貸与していたところ、同被告は、昭和二八年一一月一一日原告に対し、右(一)の貸金元利金二、〇三七、六〇〇円と(二)、(三)の貸金の合計額金三、二八七、六〇〇円並びにこれに対する利息及び遅延損害金を引当てとし別紙目録(一)、(二)記載の家屋(以下本件不動産と略称する。)及びその敷地などをもつて代物弁済したので、原告は同日右不動産の所有権を取得し、翌一二日同目録(二)記載の家屋の所有権移転登記手続を経由した。

しかるに、被告武智光は別紙目録(一)記載の家屋を、また被告四国科学器械工業株式会社は同目録(二)記載の家屋のうち階下店舗三二坪七合五勺を、被告岡井藤四郎は同家屋階下居宅五坪を、被告武智利子は同家屋階上二〇坪を、いずれも不法に占拠しているので、その明渡を求めると述べ。

被告ら主張の抗弁事実のうち、原告会社の常務取締役訴外武市純三が浮貸の嫌疑で取調べをうけたとは認めるが、右取調べの結果原告が貸付をしたことが明らかとなり、同訴外人は刑事処分に付せられなかつたのであり、その余の事実を否認すると述べ、被告らの主張に対し、

(一)  原告の被告武智光に対する前記貸付は、無尽業法第一〇条第三号に定める無尽給付のため必要な財産の取得のための資金の運用であり、本件不動産は、右貸金に対する代物弁済としてその所有権を取得したものであつて、現に本件不動産は、原告備付の甲第七八号証の給付財産台帳に記載してあり、更に甲第九号証の一、二の業務報告書にも給付財産勘定のもとに給付財産として計上し、監督官庁の認可もうけている次第である。

(二)  仮に右主張が認められないとしても、無尽業法第六条は、兼業禁止の規定であるが、原告の前記貸付は、殆んど例外に属し、営業としてしたものではないから、右規定に違反しないし、更に、一般に会社は、定款所定の目的に限らずその目的たる事業を遂行するに必要な行為をも為し得るものと解すべきところ、原告は資金の増強を営業の重要な課題としているのであるから、原告において融通しうべき資金を有し、確実な裏付が存する限り、短期の貸付をすることは、原告の目的たる事業遂行上必要な行為として許されるべきものである。

(三)  そして仮に原告の右貸付が無尽業法第六条もしくわ第一〇条に違反するとしても、それが会社の目的たる事業遂行に必要な行為である限り、原告会社の業務執行者が同法第三九条の規定により処罰されることあるは格別として、その私法上の効力には影響がないというべきである。

(四)  仮に原告の前記貸付が無効だとしても、被告武智光は、債務が存在しないにもかかわらず自ら進んで原告に対し本件不動産を代物弁済に供したのであるから、本件不動産の所有権は、原告に帰属しているのである。

したがつて被告らの主張は理由がないと述べた。(立証省略)

被告ら四名訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告主張の請求原因事実のうち、原告が無尽業法により設立された無尽会社であり、その後、東邦相互銀行と称するに至つたこと、原告主張の頃、原告と被告武智光との間に別紙目録(一)・(二)記載の家屋につき代物弁済契約が成立し、同目録(二)記載の家屋につき原告名義に所有権移転登記手続がなされたこと、並びに被告武智光が同目録(一)記載の家屋を、またその余の被告が同目録(二)記載の家屋のうち、原告主張の部分をそれぞれ占拠していることは認めるが、被告武智利子はその余の事実は不知であり、その余の被告は、原告主張の貸金は、いずれもその主張の頃、被告武智光が原告会社の常務取締役訴外武市純三個人から借用したものであるから、これに反する原告主張事実を否認すると述べ、抗弁として、

(一)  被告武智光は、右武市純三が昭和二八年三月頃同被告その他に前記のごとく貸金をしていたことから、住宅金融公庫の受託金を浮貸しているとの理由により、背任横領の嫌疑で横山東警察署の取調べをうけるに至り、加えて当時、原告に対する主務大臣の検査が厳しくなつたので、原告の業務上の手落を隠蔽するため、原告主張の頃、原告の懇請に応じ、原告に対しては何らの債務も負担していない同被告において、その所有にかかる本件不動産をもつて代物弁済したかのごとく仮装したのであるから、右代物弁済は原告と同被告間の通謀虚偽表示として無効である。

(二)  仮に右主張が認められないとしても、前述のごとく原告主張の貸金は、武市純三と被告武智光間のそれであつて、同被告は原告に対し何らの債務も負担していなかつたのであるから、右代物弁済は非債弁済であつて、本件不動産の所有権は原告に移転していないのである。

(三)  仮に原告が同被告に対し、主張の全員を貸与したものであるとしても、

(1)  昭和二六年六月五日法律第一九九号として相互銀行法が公布施行され、従来の無尽会社は金銭給付の点が削除されたので、改正後の無尽業法は物品を給付する定型無尽を規定することになつた。原告は当時建物を給付する無尽会社であるため、相互銀行法附則第三項及び第五項の適用をうけず、無尽業法の適用をうけたのであり、原告には、同法第六条による権利能力の制限があるところ、原告の右貸付は同規定に違反し無効である。

(2)  また原告会社の定款所定の目的は、(一)無尽業法により無尽の方法による土地建物の給付、(二)住宅金融公庫との契約による業務の受託であるから、原告は広く一般人に対し金銭の貸付をなすを業とする会社ではない。殊に、担保を徴せずして貸付をなしうる金融機関は制限されているのであるゆえ(銀行法等特例法施行令第四条の一、同条二、)、原告が無担保貸付をすることは、原告の業務の範囲でないことは明らかであるとともに、一般人に対する金銭貸付は、原告会社の目的たる事業を遂行するに必要な行為でもない。けだし、これが許されるとすれば、無尽業法の根本精神を否定することになるばかりでなく、無尽会社に対する国家の監督も無意味になるからである。したがつて、原告の本件貸付は目的外の行為として無効である。

(3)  無尽業法第一〇条第三号、同法施行細則第一四条の三によると金銭及び有価証券以外の財産の給付をなす無尽会社は、(一)給付すべき財産の取得、(二)給付すべき財産の生産、加工等に使用する原材料の取得、(三)給付すべき財産の生産、加工等に要する費用の支出によつてのみ営業上の資金を運用することができるのであり、その趣旨とするところは、無制限なる資金の運用が会社の基礎を破壊し、会社と無尽契約をした掛金者に損害を及ぼすことを防止せんとするところにある。しかして原告主張の金員貸付は、右にいわゆる営業資金の運用にあたらぬことはいうまでもない。したがつて原告の本件貸付は、右規定に違反し無効である。

(4)  さらに無尽業法第一条は、無尽の意義を定めた規定であるが、それは同時に無尽会社が営業として行う無尽契約なる特殊の契約の本質を定めたものであり、したがつて無尽会社は、この本質と矛盾する内容の契約を行うことは許されないことを定めているものである。そして無尽契約の本質としては、一定の口数と給付金額が予め定められ、加入者から掛金を定期に払込ましめ、一口ごとに抽せん、入札その他類似の方法により掛金者に対し、金銭以外の財産の給付(原告会社においては土地・建物をなすべき旨の合意がなされることが必要であり、これらの要素のいずれかを欠く契約は、原則として無効とされる。このことは無尽における加入者全体の利益を保護し、加入者全体に公正平等に金銭以外の財産の給付受領の機会を保障せんとするものであるから、加入者が正当に掛金を払込まないでも給付をうけるとするような内容の約定が無効なことはいうまでもない。原告は全く抽せん、入札その他類似の方法によらずして被告武智光に対し、金員を貸付けたというのであるから、原告の本件貸付が無効であることはいうまでもない。

(四)  以上いずれの理由によるも原告の被告武智光に対する本件貸付は無効であり、それにもかかわらず同被告が原告に対してなした前記代物弁済は、非債弁済であつて、本件不動産の所有権は原告に移転していないのである。

(五)  原告の(四)の主張について、被告が原告に対し債務を負担していないことを知りながら本件不動産を代物弁済に供し債務を負担していないことを知りながら本件不動産を代物弁済に供したことは認めるが、当時前記のとおり武市純三が背任横領の嫌疑をうけ、原告にもその累が及ぶ結果になるのを防止するため、被告武智光としては、止むをえず代物弁済という措置をとつたのであるから、代物弁済は無効である。

以上述べた理由により被告武智光は依然として本件不動産の所有者であり、被告四国科学器械工業株式会社は、被告武智光から別紙目録(二)記載の家屋を無償にて借受けているものであり、その余の被告は、いずれも被告四国科学器械工業株式会社から、それぞれの占拠部分を無償にて転借しているのであるから、本件不動産が原告の所有であることを前提とする原告の本訴請求は失当であると述べた。

(立証省略)

理由

原告はもと無尽業法により設立せられ、東邦建物無尽株式会社と称していたが、昭和三三年四月一日相互銀行として発足し、商号を株式会社東邦相互銀行と変更するに至つたことは、当事者間に争なく、成立に争のない甲第二号証、同第一〇、一一号証、乙第二号証に、証人武市純三(第一、二回)同光田輝雄の各証言及び被告武智光本人尋問の結果の一部を綜合すると、原告は、常務取締役武市純三を通じて被告武智光に対し、昭和二七年一二月一〇日頃金一、八〇〇、〇〇〇円を利息日歩金一〇銭、弁済期昭和二八年二月二八日と定めて、貸与したほか、昭和二八年二月頃金四〇〇、〇〇〇円については弁済期同年三月七日、金八五〇、〇〇〇円については弁済期同年三月一二日と定めて貸与した事実を認めることができ、右認定に反する被告武智光本人尋問の結果は措信せず、他に右認定を覆すに足る証拠は存在しない。

しかして被告武智光が昭和二八年一一月一一日原告に対し本件不動産を代物弁済に供したことは、当事者間に争なきところ、被告らにおいて、右代物弁済は原告と被告武智光の通謀虚偽表示にもとずくから無効であると主張するので判断するに、いずれも成立に争のない甲第一号証の一ないし六、同第二号証、同第四号証の二、同第一一・一二号証に証人武市純三、(第一・二回)、同光田輝雄、同吉本幸雄、同重松秀、同酒井新次郎の各証言を綜合すると、前記武市純三が昭和二八年三月頃貸金業法違反の疑で東警察署の取調べを受けた事実を認めることができるけども、それに起因し被告ら主張のごとき事実にもとずき、被告武智光が原告に対し本件不動産を代物弁済に供したものとは認められず、むしろ同被告は、原告に対する前認定の債務弁済のために本件不動産を原告に提供した事実を認めることができ、右認定に反する被告武智光本人尋問の結果は措信せず、他に右認定を覆すに足る証拠は存在しない。

そうすると被告らの右主張は失当であり、更にまた、被告武智光が武市純三個人から原告主張の金員を借りうけたことを前提とする被告らの(二)及び(五)の主張は、前記認定に反する事実を前提とするのであるから、その点につき判断するまでもなく失当として排斥を免れない。

次に被告らは、原告の本件貸付が無尽業法第六条に違反すると主張するけれども、同条は兼業禁止に関する規定であると解すべきところ、原告の本件貸付が原告会社における独立の業務として反覆継続的な意図をもつて行われたものと認めるに足る証拠は存在しないから、被告らの右主張も理由がない。

更に被告らは原告の本件貸付が原告会社の目的外の行為であると主張するからこの点につき判断するに、成立に争のない乙第一号証によると、当時、原告会社定款所定の目的は、(一)無尽業法により無尽の方法による土地建物の給付、(二)住宅金融公庫との契約による業務の受託であり、原告の本件貸付が右定款所定の目的自体に関する行為でないことは明らかであるが、しかし右貸付行為は、これを客観的抽象的にみて、原告会社の目的遂行に必要な行為であると解するのが相当であり、右貸付行為は原告会社目的の範囲内の行為に属するものというべきである。

これに反する被告らの主張は採用しない。

しかして被告らは、さらに原告の本件貸付が無尽業法第一条並びに同法第一〇条第三号(同法施行細則第一四条の三)に違反すると主張し、原告は同法第一〇条第三号にもとずく資金の運用であると抗争するので判断するに、原告の本件貸付が無尽給付としてなされたものでないことは、その主張自体に徴し明らかであると共に、無尽業法第一〇条第三号の資金の運用に該らないことはいうまでもないが、しかしこれらの規定は、いずれも講学上所謂取締規定にすぎないものと解すべきであるから、違反者において制裁を科せられることあるは格別、本件消費貸借の私法上の効力には消長をきたさないものというべきである。

したがつて、原告の被告武智光に対する前記貸付は有効であり、これに対し被告武智光は前記のとおり、本件不動産を代物弁済に供したのであるから、原告は適法に本件不動産の所有権を取得したものというべく、右貸付の無効なことを前提とする被告ら爾余の主張はいずれも失当として排斥を免れない。

しかして原告は、所有権を取得した別紙目録(二)の家屋につき所有権移転登記手続を経由したこと、被告武智光が別紙目録(一)記載の家屋を、被告四国科学器械工業株式会社が同目録(二)記載の家屋のうち階下店舗三二坪七合五勺を、被告岡井藤志郎が同家屋階下居宅五坪を、被告武智利子が同家屋階上二〇坪をいずれも占拠していることは当事者間に争がなく、被告武智光を除くその余の被告らは、その占有権原につき、被告四国科学器械工業株式会社は、被告武智光との使用貸借を、被告岡井藤志郎、同武智利子は被告四国科学器械工業株式会社との転使貸借を主張するのであるから、いずれにしてもこれをもつて原告に対抗することができず、被告らはそれぞれの占拠部分を原告に明渡すべき義務があるというべきであるよつて原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条本文を適用し、主文のとおり判決する。(昭和三四年七月一日松山地方裁判所第一民事部)

(別紙目録は省略する。)

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